母音「r.」の口唇の形について考えてみた

2015年12月23日

かねてからアヌッスヴァーラにまつわる疑問があったため、このたび「わかりやすいサンスクリット語の正しい発音と表記」という本を購入しました。

そこでは、その目的とは別の有意義な発見がありました。

母音「r.」の発音です。(rの下に点がつく表記と思ってください。このホムペはテキストエディタで作成しているために、特殊文字を貼りつけることができませぬ。。。)

3.重要なポイントは、唇をまったく動かさないことです。唇を「イ」や「ウ」の形にして「リ」や「ル」と発音するのは、インド人でもよくする間違いです。唇は完全にリラックスさせて半開きにしながら発音します。

「わかりやすいサンスクリット語の正しい発音と表記」(著者Medha Michika)

と書いてあるのですが、、、

私はその「インド人でもよくする間違い」のほうで教わりました。“喉の奥の辺りから巻き舌でRの音を出すようにして、唇は「u」音と同じくタコのように突き出す”というように。

考察!

そこで、この相反する二つの発音方法について、私なりに考えてみました――。

  • 「r.」は母音であり、直前に子音がつけば「kr.」「nr.」「mr.」のようになる。それは「a」の前に子音がついて「ka」「na」「ma」となるのと同じ要領。
  • サンディ(連声音)によって「r.」の後に(r.以外の)母音が接続される場合、母音「r.」は子音「r」へと変わる規則になっている。すなわち、「r.」の前後には必ず子音が来ることになる。
    ※ただし、一部の辞書では「r.」を「r.i」と表記するような、表記上の例外があるッ(`・ω・´)

    【サンディ例】kartr. + iha → kartriha(○○r. + u△△ → ○○ru△△)

  • 「r.」と発音するとき唇をuの形に尖らせると、語尾に母音uがつかないほうが不自然であり、その発音は限りなく「ru」に近くなると思われる(上記のサンディの理論からも)。すると、この場合の「r.」と「ru」はほとんど唱え分けがされないことになるぽい??

以上のことから、『「r.」は唇を動かさず半開きで』という発音法のほうが、「r.」と「ru」の音の違いが説明可能になり、理に適っているように思われました。

【「r.-r-ru」の違いをまとめてみた表】
r. r ru
分類 母音、1音長(マートラ)子音、0.5音長子音r+母音u、1.5音長
唇の形 動かさずに半開き-uの音により突き出す
直後にu音が続く場合 ruになるruになる-
単語例 r.ta-(法、天測)
amr.ta-(不死)
hr.daya-(心、心臓)
tryambaka-(シヴァ、ルッドラ) purus.a-(プルシャ、人間)
rudra-(ルッドラ)

まとめ!?

実際のところ、唇を半開きのまま巻き舌にしたほうが、より自然に唱えられる気がします。ヴェーダを唱える流れの中で、唇を尖らせつつ「r.」の直後に「u音」を入れないようにするのは、なかなか難しいような・・・。

もちろん、唇をuの形にしながら純粋にタングトリル(巻き舌の連続音)の音だけを出すことは可能だと思います。しかし例えば「vr.ks.a(ヴルックシャ、木)」などは、「r.」の後に複合子音が続くため詰音が入りますが、このとき唇を出すと勢いで「ru」になりがちです。その点、唇が半開きであれば、純粋にタングトリルの音だけを出せるでしょう(ただし、きれいなタングトリルを出すには相応の練習が必要です)。

私が教わった場所では、「r.」は唇をウの形に、というのは現時点ではかなり徹底して指導されています。それは上層組織にあたるインドの、ヴェーダ指導者からの教えがそのまま伝えられているからですが。

私個人としてはMichikaさん式のほうが妥当かなと思いつつも、いずれを参考するにせよ、ヴェーダを学ぶ際は正確性と柔軟性という両者の間を、適当にバランスをとりつつ進んでいくのがよさそうです。

最後に、同書のコラムから一部引用させていただき、しめくくりたいと思います。

さらに、インドや欧米、日本の大学や教育機関では、発音の正確さは重要視されていないため、発音に関しての意識が低いサンスクリット学者が多く、ゆえに間違った発音の知識が広く教えられているのが現状です。

・・・

したがって、今までにサンスクリット語の発音を聞いたり教わったりしたことがある場合、本書で扱っているシュッダ(純粋)な発音の知識とは相違する点が幾つか見つかるのも当然のことです。そのような場合は、「正確な発音とは、意識して保たれなければならないものだ」という姿勢で勉強を続ければ良いでしょう。

「わかりやすいサンスクリット語の正しい発音と表記」(著者Medha Michika)